京都大学大学院ドイツ文芸表象論奥田研究室最新情報

京都大学ドイツ文芸表象論(奥田)研究室
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ドイツ文学と日本文学(松波烈)

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2017年にPetra Hülsmann『Das Leben fällt, wohin es will』(ISBN: 9783404175222)というティーン向け小説(2017)を読んでいて、作中に14世紀の海賊「フィタリエンブリューダー〔Vitalienbrüder〕」の1人Klaus Störtebekerの伝説が出てくるが、詳細はウィキペディア雑記事で確認できるとして、つまり何らかの「長」的な人物が斬首刑にされる際に斬首後に走って通り過ぎた数の部下の命を救って欲しいと言って本当に実行してしまうというモチーフが気になった。読んだ覚えがあるからだ。確かにこれはグリムの『伝説集』の1話でもある。Diez Schwinburgがそれで、Störtebekerからグリムまでつながる糸が有るのだろうか。小説ではStörtebekerがこの業で「がっつり12メートル」走って「30人以上」を救ったと書いてあり(190頁)、ウィキペディアには11人→約束破られ部下73人全員処刑/またはそもそも全員処刑とある。グリム側の数字は「4人」。Störtebeker・グリムのこのモチーフつながりを扱っているウェブ上の記事がMünchner Sagen, G‘schichten und Legenden | Am Marienplatz Teil 2のみ。他に、映画「12 Meter ohne Kopf」(2009)との関係も考えられる。

このモチーフが近年で日本でも見らる。「バキ」シリーズの『範馬刃牙』の第19巻の32~37頁、鎬紅葉が語る逸話であり、言葉を濁しているが絵を見ると舞台を戦国時代日本にしている。これには日本語の典拠があるとしか考えられず、われわれは独自の調査を進め、典拠であろうものとして、まず1990年出版の『グリムドイツ伝説集』下巻(189頁)(ISBN: 9784409530108)や、Schwinburg譚を収録した1984年出版の『世界の怪談―怖い話をするときに』(ISBN: 9784584300381)(182頁)や、他に、斬首後に生きて動く人体というだけの事だが1968年出版の『定本坂口安吾全集』第2巻収録の「五月の詩」冒頭部分(398頁)などに突き当たった。また斬首後に生きて動く人体というモチーフを主題にした2009年のエンタメもので『多聞寺討伐』(ISBN: 9784594059224)所収「大江戸打首異聞」なども見つかる。
そしてこうしてきたところで??Störtebeker→グリム→??日本のつながりの糸が皆目見出せない、資料が無さすぎる、装備が無さ過ぎる。個人には不可能な在源研究なのだろうか。今のところグリムまでのSchwinburgの諸形態が分かっている。1689年のEberhard Werner Happel『Grösste Denkwürdigkeiten der Welt』所収「生きてる屍〔Der wandelnde Todte〕」(425頁)では「Dietz von Schauenburg」である。その後「Dietz von Schaumberg」になって、Johann Heinrichs von Falkenstein『Antiquitates Nordgavienses』内の記事(175頁)でこのSchaumbergの偉業が1337年と記す。次に見つかる文献が1818年出版グリム『伝説集』第2巻で上記の如く「Diez Schwinburg」(203~204頁)。その後1835年にJoseph Hormayr, Baron zu HortenburgTaschenbuch für die vaterländische Geschichteの「恩人首無し〔Der Retter ohne Kopf〕」(442~443頁)が「Dietz von Schweinburg」として当人物の前史から記述して、やはり偉業を1337年と記している。この「Dietz von Schweinburg」を今度はKarl Gottfried von Leitnerが「1307年」のこととと記しつつバラードにする(1843年出版のAlbum aus Oesterreich ob der Enns199~203頁)。

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